2014年5月25日日曜日

今日は広島内での移動日。広島市内から尾道を経由して、今回の目的である「鞆の津ミュージアム」へ。宿は頭の中ではこれだという候補はあるのだが、まだ決めていないという状態。

昨日の運転の疲れが残っていたのか、朝食の時間まで起きれず、チェックアウトの時間ぎりぎりに出る。

広島から尾道へは高速を使うのと一般道とでは30分ぐらいしか違わないので、高速を使わず下の道で移動。途中、猫よりは大きめの動物の死骸をカラスが、その鋭いくちばしで生々しく肉をかっさばいてる様子を目撃する。昨夜、広島の繁華街でも狸に似た不思議な生き物がコンビニにいたり、野性味あふれる広島県を堪能している。

尾道に到着。路地からお寺や海が見えるのが尾道ならではの情景だ。


おもむろにアーケードを歩いていると一気に郷愁に誘われる。住んだこともない尾道という土地に魅了されたのは、好きな映画監督である大林宣彦作品の影響である。とはいえ、たまたまでもあるけれど毎年のように足を運んでいるのは、コンビニやドラッグストアがまだ無かった頃の佐世保のアーケードをどこか彷彿とさせるからなのかもしれない。




意図して排除しているのか、ただ店舗形態として合わないのかは分からないが、尾道のアーケードには所謂チェーン店がない。数年前に物心ついてはじめて訪れた時はシャッター通りのイメージもややあったが、今回訪れてみると、新しく、それも素晴らしいお店が増えつつあるのに驚かされた。



ハード系のパンとベーグルがとても美味しい「パン屋航路」。正直、佐世保でここより美味しいパン屋はないのではと思うほど。店名はおそらく尾道に旧居のある志賀直哉の代表作である『暗夜行路』の捩りだろう。思いのほか時間がなくなっていたので、パンとベーグルを買い、少し先にある、ここも素敵な自家焙煎・豆専門店「Classico」のアイスコーヒーで昼食代わりとした。

車で一時間ほどかけて鞆の浦に入る。宮﨑駿がこの地をいたく気に入り、『崖の上のポニョ』のモデルになったと言われている場所である。
いざ車で中心地に入ると狭い道に驚く。離合したりしながら恐る恐る進む。ただ車で通過するだけでも、その味わいのある街並みに目を奪われる。

海の方に出ると比較的広い道に出たので、ほっと胸を撫で下ろす。ナビはとても便利だが、こういうことがあると物は使いようだなと思った。

駐車場に車を止めて、長閑な海辺の家々の通りを散策していると、今回の「ヤンキー人類学」の展示に合わせて建てられたのかと思うような標石に出くわす。


もっとじっくり散歩していたいが、都築響一さんと上野友行さんのトークショーの時間に間に合わなくなると本末転倒もいいとこなので、「鞆の津ミュージアム」に直行する。


この「鞆の津ミュージアム」は、築150年にもなる蔵をアール・ブリュットまたの名をアウトサイダー・アートと呼ばれる既成の芸術にしばられていない作品を展示する美術館としてオープンした尖った美術館である。しかも鞆の浦という長閑で美しい場所に。


「ヤンキー人類学」。まずはいきなり相田みつをの有名すぎるポエムでお出迎え。ちなみに撮影は自由。アカデミズムを笠に着て、威張っているような上から目線ではないこういう姿勢がとても素晴らしい。ちなみに館内は、ヤンキー文化として展示されているパチンコの音と改造車のアクセルコールの音が反響している。


小部屋には北九州の成人式を成人祭の域にまで高めた立役者「みやび」の衣装や、成人祭の様子を伝えるスナップ群。成人式を体験しない人生だったので、いまだにこういう文化だというイメージが勝手に植えつけられている。


“ガイアが俺にもっと輝けと囁いている”で一世を風靡した雑誌「メンズナックル」キャッチコピーたちもしっかり展示物として紹介。


ファミコンゲーム『くにおくん』シリーズで馴染みはある(思えば、これが最初に接したヤンキーカルチャーかもしれない)が、こうして現物のメリケンサックを美術館の展示物として見ることになるとは思いもしなかった。


デコトラならぬデコチャリ。以前、新門司港の阪九フェリーターミナルに行く途中、見かけてあ然とした物をさらにデコレーションを高めた物が展示されている。福岡、それも北九州シーンはアツい。





かわいいなめ猫がプリントされたスウェット。先ほどのデコチャリも後ろにはミッキーとミニーがフューチャーされていたりと、実はヤンキーは可愛い物がとても好きなのである。
聴いていた音楽がディスコというのも面白い。代々木公園に派生した竹の子族もディスコを聴きながら踊っていたといわれているし、そこからディスコ文化ともきっと繋がりがあるのだろうな。



絶大なインパクトを持つメインフロアに鎮座するのは改造単車、その名も「CRAZY SPECIAL」。こちらも福岡県は筑後から乗り込んで来た。素晴らしいフォルムはベニヤ板で出来ており、このポップなカラーリングはポスカだという。当然、こんな形をしているとスピードは出せないそうだが、ここまで行くともはや芸術の域に達しているなとつくづく感心する。


蔵の中にしっかりと収めたコンパクトなデコトラまたの名をアートトラックもばっちり展示。キティちゃんとルイ・ヴィトンが同居するという、このセンスが素晴らしい。

福岡で都築さんを呼んだSさんと、都築さんマニアの女性と再開。日帰りの弾丸ツアーであるが、他にも大阪や東京、北海道まで都築さんがこの鞆の津ミュージアムに目掛けてやってきている。都築響一さんという熱は伝播し、人を突き動かすのである。

都築響一さん、上野友行さんのトークショーは鞆の津ミュージアムのすぐ近くに位置する「鞆こども園」で行われた。ヤンキーや裏社会をテーマに話をするにはあまりにも相応しくない場所ではあるが、その自由さ、大らかさもまた素晴らしい。

こども園に貼られた、AKB48の岩佐美咲「鞆の浦慕情」に食いつく都築さん。
障害者の作品を展示をするためにはじまった、「鞆の津ミュージアムがどんどん脱線していき…まあ、ある意味、傷害者ですが」とブラックジョークをかまし、更に「でもさ、順番逆だよね。ヤンキー展があり、刑務所良品があり、最終的に死刑囚展にすべきだったね」などと最初っから飛ばしていく都築さん。

上野さんによる、地下格闘技の話。 現在の地下格闘技のルーツは映画の『ファイトクラブ』。当時は「山田うどん」(こちらでいうところの「牧のうどん」のようなロードサイド型チェーン店)の駐車場でやっていたという。ルールは3分1ラウンド。技術やスタミナがないので、それぐらいの短時間だという。ド素人の殴りあいなので見ている方は楽しいという。
ヤンキーは上下関係がはっきりしていて、後輩がしっかりいるので70人とか100人とか平気でどんどん引き連れてくるので、チケットは外部に出回らないという。ふつうの格闘技ファンがなかなか見れないのはそのため。したがって必ずしも強くはないのに、大会の後半に出場する選手は、弱いけれど、それだけ“客”を持っている選手ということになる。

 暴走族向けの雑誌『チャンプロード』の出版社が総額27億円もの詐欺に遭った事件の話題。闇社会とか知っていそうなのに引っかかるというのはいかがなものかという話から、旧車會の集会や地方での各地の動きにメディアがついていけていないという状況からメディア論へ。
ある意味、ひとつの伝説を確立した『小悪魔ageha』の出版社の倒産に伴う休刊、飯島愛の追悼ページが完全にアートだという話。

ファッション雑誌に連載をしていて思ったのは、かっこいいのはそのモデルであって、必ずしも誰しもがブランドが似合うわけではないという話から、誰でも似合う服となると、女ならお水スーツ、男は極道ジャージという。
担当していた女性編集者にお水スーツを着せて写した写真を見せながら、着た瞬間にお水に見えてしまうというのを表す一枚。 こういうお水スーツは通販カタログで購入するという。会社はだいたい岐阜にあり、しかも24時間コールセンターで日英中韓4ヶ国語に対応しているというから、ぶったまげる。

 ファニーな犬のイラストが目を引く、極道ジャージのガルフィー、ルイバーサスの話。撮影をお願いしたところ、Yシャツの上に着るのが通だという。 今回の展示に合わせてやってきていたキメキメの「BIRTHJAPAN」という極道ジャージなどを扱うお店を経営されている石川さんの紹介。農家とフィリピンパブが軒を連ねる中、シャッター商店街の中で悪ガキ製作所の看板を掲げて営業しているという。 当然、周りからは嫌な顔をされているそうで、なかなか大変なようだ。

お客さんが暑いから切ってくれといって持ってきた服を切って七分袖にしたりするというのは顧客の方を向いているという意味で、そこら辺有名なお店とは違うという話もとてもおもしろい。

極道の方のイメージのあるセカンドバッグ、アタッシュケースはスーツ、ジャージどちらにも合うという話も慧眼。 上野さんが以前セカンドバッグの中身は何かというアンケートを親分にとったところ、本が多く、読書家だったりするという。そのきっかけが刑務所に入ってやることがないから読みだしたというのが面白いし、何を読んでいるかというと、色々読み漁った末にベストセラーになるという。例えばそれが東野圭吾だったりするのが面白い。凝り性なのでイヤフォンマニアになったり。聴いているのがヒップホップや、若い愛人経由で西野カナだったりするという。

ヤクザ文化とは切っても切れない刺青の話。プロとアマチェアの見極め方。アマチェアは自慢するかのように出しているが、プロは隠すという。専属の彫師を雇っているというのも凄いし、彫師としてもその方が稼げるのだという。 いまは分かられないように、隠語を使う。例えば組のことを会社と言ったり、しかしその世界に浸かっているせいか、おじさんと言っているつもりが叔父貴とかパンピーが使わない単語が飛び出したりするのはご愛嬌か。  ベルギー人のカメラマン、アントン・カスターズが撮ったヤクザの写真集『ODO YAKUZA TOKYO』について。アントンが歌舞伎町で呑んでいたら、ふらりとヤクザの方が入ってきて、そのかっこいい佇まいにすごいなと思って、一年ぐらいかけて口説いて写真集を撮ることになったという。ただし日本では発売をしない、写真展をやらないことを条件に。日本のその手の雑誌記者が撮るようなヤクザとは違った、センスの良さ、こう言っては何だけどかっこよさを感じる。いつかこの写真集を手にしてみたい。 写っている合宿の姿を見て、これは右翼団体ではないかという上野さんの指摘。政治結社にすることで合法的に恐喝できるようになるから右翼団体をつくることが多いのだという。

さらにヤクザは野球が好き。刑務所の中でソフトボールを覚えるのがきっかけになるという。いままで、まともなバットの使い方を知らなかったという話に爆笑。シャバに出てきて草野球チームをつくることも多いらしく、勝負ごとにこだわるせいか、次第に有力高校のピッチャーを連れてきたりしだす。そうなると向こうも助っ人を投入して、代理戦争状態になって、最終的にヤクザはベンチに座っているだけ、という話は絵面を想像しただけで笑えてしまう。

長い懲役が出世するシステムが昔はあったのに、今はなくなったという。 シャバに出たらすごい額の慰労金などがかつてはあった。 関東連合はあくまでもヤクザではなく元ヤンだという。早飯早糞が基本。親分より先に橋を置かなくてはいけないので、結構なスピードになる。親分もそうやって育っているので当然早い。例えばカップ焼きそばのUFOを三口で食える。

続いて、『刑務所良品』という本も出版している都築さんの刑務所話へ。 8:2の割合で男子が多く、女子刑務所は全国で7つぐらいしかない。男子はキャラ(性格)や罪で分けられる。いちばんすごいのは千葉刑務所。取材に行った当日、職員と一緒にご飯を食べたが出てきたのが、インドネシア風のカレーに春雨サラダ、おすましという凝った献立。元帝国ホテルのシェフで懲役刑のやつがいるからだというのが理由だそう。千葉刑務所はお神輿をつくっているという。刑務所内での全国のコンテストがあり、そういう時は一致団結して作るのだという。
刑務所で作られる品々は、オリジナリティを求めず、いちばん普通の物をつくらせるということを前提としている。ひとつだけだと大したことはないかもしれないが、全部刑務所製品で集めたらどうなるかというのを表した写真がなかなかのインパクト。ある意味、それが日本の標準を表しているとでもいうべきか。

岩国の女子刑務所の話。『女囚さそり』の世界と思いきや、すごい高齢化。エアロビをやっていて、アバの「ダンシングクイーン」が流れていたりするというからものすごい。 7割はシャブ中。ヤンキーの間ではシャバに出た直後はモテキだという。理由が締りがいいため。とはいえ、高齢化している現在はまた変わってきているのだろうか。ASKAの話も含め、遅咲きで悪いことをはじめると止められなくなるという。
非行をするなら若い内と、説得力のある話を“こども園”でする上野さん。

北九州は左翼グループが強く、北九州の屋台はお酒が出ない。立ちションベンすると汚いからやめてしまえというのがその理由だという。北九州は物騒だというが、ヤクザが無差別に襲っているわけではなく、その左翼グループをピンポイントで襲っているからだという話には慧眼。むしろヤバい地域は久留米、大牟田で流れ弾が飛び交う、かなりのデンジャラス・ゾーンだという。

広島市現代美術館でやった都築響一さんの展覧会「HEAVEN 都築響一と巡る社会の窓から見たニッポン」で、その圧倒的なインパクトをもって展示されていた単車の話。広島市で暴走族撲滅運動をやっていた時期と重なっていたので、ちょっと物議を醸したという。
暴走族は絶滅しつつあるが、もっと絶滅しているのがレディース。ということで、DOMMUNEでも紹介していたレディース向けの雑誌『ティーンズロード』が作ったビデオを上映。「全国制覇を目指しているんで、夜露死苦〜(夜露死苦!!)」 のリフレインが頭にこびりつく。アクセルコールを外国人に見せるとすごく驚かれる。日本だけといってもいいし、これこそがクール・ジャパンなのかもしれない。
都築さんファンの間ではご存知、水戸黄門のアクセルコールには爆笑とともに拍手まで巻き起こる。 先輩ごとに曲目が決まっているという。勾留されている仲間がいたら、そいつのために持ち曲を奏で、エールを送るといういい話はたまらないものがあった。


トークショー終了後はサイン会。都築響一さん。「性技の味方スーハーマン」Tシャツに反応してもらったのは嬉しかった。


上野友行さんに、となりにいる強面の方が「BIRTHJAPAN」の石川さん。


福岡からとんぼ返りするSさん達をバス停で見送り、日が沈んだ直後の群青色のような鞆の浦の景色に見惚れる。今度はじっくりと観光したいな。

駐車場へと向かっていたら、先ほどのトークショーで目についた女性2人と外国人の男性1人の3人組とばったり。初対面もいいところだけど、同じ時間を共有すると何だか互いに声をかけやすくなる。訊けば、今夜泊まる宿は尾道のゲストハウス「あなごのねどこ」だという。実はこの時点で本日の宿は決めていなかったし、実はそこが本命だったので、じゃあ僕らも泊まりますと宣言。また後で会いましょうといって、それぞれ車に乗り込む。こういう楽しさこそ、旅の醍醐味という感じではないだろうか。

車の中で電話をして宿の確保も完了。1時間弱で尾道へ戻る。明日、行く時間があるか分からないし、千光寺からの夜景って見たことなかったので行ってみることにする。昼間は有料の駐車場も、夜は自由に止めていいようで、ちゃんとライトアップもされている。



夜景は佐世保や長崎に比べると見劣りはするが、これはこれでまた違う良さがある。


入り口は昔の小学校をイメージしたカフェになっている「あなごのねどこ」。新潮社『考える人』の特集、日本の「はたらく」で、尾道空き家再生プロジェクトとして紹介されていたので以前から気になっていたのだった。
尾道は過去に別の2つのゲストハウスに泊まったことがあるが、楽しさ、独創性、完成度ではここが一番。

カフェは通らず、その、うなぎの寝床のような狭く、細長い長屋を抜けたところにゲストハウスの受付がある。


チェックインして、設備の話を聞いた後は、尾道の夜の街で腹ごしらえ…のつもりが、行きたいお店がタッチの差で閉店、もしくはお休みだったりで空振り。

たまたま開いていた「居肴屋 馬口」に入る。かなりメニューが豊富だが、若いオーナーが一人で作っているというから驚いた。屋号の馬は、ここら辺で馬刺しを食べるお店がなかったので、自分がやろうと思ったという。熊本の馬肉を使用しているとのこと。せっかくなので瀬戸内で採れたものを、ということで食べたシャコが美味しかった。


「あなごのねどこ」に戻ってきた頃には、先ほどの3人組や1人旅で来たという泊まり客、当直のスタッフらで出来上がっていて、何とも和気あいあいとしていて、とても楽しい雰囲気。理想のゲストハウスってこういうことを言うんじゃないかなと思ったりした。


何とも充実した1日であった。心地よい疲れがとても良い睡眠導入剤となった。

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